ベーからの手紙      

No 129. APR.11.2007


 
 元気ですか?
 いつもの年よりずっと早く、仙台の桜の花が咲いています。
 黄色い水仙も、白いモクレンも、薄紫のコブシも、
 白や紫のヒヤシンスも、スミレも、ムスカリも、花ニラも・・、
 みんないっせいに花を咲かせています。
 たくさんの花の色で空気が明るくなりました。


今、仙台の訓練所に、生まれてから3ヶ月のセント・バーナードの子犬がいます。
ちっちゃくって、ふわふわで、ぬいぐるみのような元気な女の子。
家族になってくれる人が現れるのを待っているところです。

僕は、生まれてたった1ヶ月で、母さんのおっぱいとも一緒に生まれた兄弟達とも
離れて、この家にやって来ました。
それは、パパとママに少しでも早く悲しみを忘れて元気になってほしいという
訓練士さんの気持ちでした。
11月、1代目のベートーベンが息を引き取った次の日、2人はお店のシャッターを
下ろして動物のための斉場へ向かいました。
シャッターには貼り紙。
 「子ども代わりに愛してきた愛犬が病気で天国へ旅立ちました。
  今日は休ませて下さい。」
その次の日の朝、隣のホテルに泊まったという男の人がお店に入ってきました。
 「いや、きのうおもしろい貼り紙を見たからさ、どんな店か来てみようと思ってね。」
パパとママにとっては当たり前で真剣な気持ちを綴った貼り紙だったけど、
他の方からみると、どこかおかしかったのかもしれません。

年が明けて1月2日に訓練所で僕が生まれ、1ヵ月後には2代目のベートーベンに
なりました。
 「たったひと月で母犬から離すなんて! まだ免疫もできていない。」
生まれた時から面倒をみてくれた獣医さんは怒っていたけど、僕は元気に育って
長生きをすることができました。
そして14年後、僕が息を引き取った9月の暑い日、ママは、あゆちゃんに知らせる
ために泣きながら小学校まで走ったそうです。
ちょうど水泳の授業の最中、水着姿でプールサイドにいたあゆちゃんはママの
泣き顔を見て、「べー、だめだったの?」とフェンスの向こうから口を動かしました。
うなずくママ、うなだれるあゆちゃん。
親子の様子に気づいた担任の女の先生が近づいてきました。
 「早退しますか?」 「あの・・本人に任せます。」
 「任せますって、お母さん、それは無理でしょう。」
先生は、涙を流すママをあきれ顔で見ながら言いました。「早退して下さい。」
5年生の他の友達も、驚いた顔でママとあゆちゃんを見ていたそうです。
次の日、1代目のべーの時と同じようにお店を休んで、家族みんなで動物斉場へ。
2学期のあゆちゃんの通信簿には、この日学校を休んだ理由がこう書いてありました。
 「家庭の事情」
担任の先生は、なんて書いたらいいか悩んだかもしれませんね。
うちの家族にとっては当たり前のことだったけど、他の人からみると、やっぱりどこか
おかしかったのかなぁ。

しばらく前、店にコーヒー豆を買いにきて下さったご夫婦が、「ヨハンに会いたい」と
おっしゃいました。
 「シベリアン・ハスキーが14才で死んでしまったばかりなんですよ。
  そしたらうちの人が、会社の近くでセント・バーナードを見かけるんだ。
  大きいけどよくコントロールされていていい犬だ。見に行ってみないかって。
  飼いたくなったって言うのよ、セント・バーナードを。
  ペットショップを何軒か回ってみたけど、バーナードの子犬はいなくて。
  でも、日中散歩させるのは私ですよ、ねぇ?」
じっと棚の商品を眺めていたご主人が、ぼそっと、ひとこと。
 「・・・飼いたい。」
 「まーた始まった! 結局面倒みるのは私なんだってば。」
ご主人は奥さんと目を合わせずに、「・・・でも、欲しい。」

人生の中で何かにのめり込んでしまうということは、もしかすると、他の人からみると
ちょっとおかしくて、でも、自分達はいつも真剣なんですよね。
あのご夫婦、またお店に顔を出してくれるといいんだけどな。
かわいいセント・バーナードの子犬が、ちょうどいますよ。

そうそう、2代目ベートーベンの僕が天国へ旅立ったことがわかって、お店には
花束がいくつも届いたそうです。
ひろちゃんの保育園の友達、お店の広告を出している新聞社の方達、
あゆちゃんとひろちゃんのピアノの先生、そしてお店のお客様からも・・。
セント・バーナードにのめり込んでいるうちの家族の心をわかって下さる方達も、
いるんですね。

ヨハンは長生きをしてくれる、と僕は思っています。
でも、ヨハンのもしもの時に1番心配なのは、ひろちゃんです。
寝ながらも薄目を開けてひろちゃんの動きを追いかけるヨハン、
 「おい、こら、ちら目で何見てんのさ?」とヨハンのほっぺを引っぱるひろちゃん。
ケンカをしているようにも見えるけど、不思議な強い愛情で結ばれている仲良しです。
ヨハンには、僕よりも長生きをしてもらわなくちゃ。

あ・・あれ? あのご主人だ!
ほんとに、ちょうどここまで手紙を書いた時、セント・バーナードの子犬が欲しいと
言ってたあの時のご主人がお店の外にいるじゃないですか。
パパが急いで外へ出て行きました。
今、2人で話をしています。
何かにのめり込むということは、神様が素敵なめぐり合わせをさせてくれることでも
あるのかもしれませんね。
結果は・・あとでご報告!

                      今日はここまで、またね。
                               Beethoven

子犬特有のぽんぽこのピンクのお腹

訓練所の校庭で遊んでいます

花見の宴とは縁のない静かな国際センター

今年から共学になった仙台二高の桜
No.128 No.130