ベーからの手紙      

No.159  2012年12月31日

 元気ですか?
 
 あっという間に1年が終わり、今日はもう大晦日ですね。
 あの大きな地震からどんどん時間が経っていくけれど、
 今でも大きな揺れがあると、あの日を思い出すのか、
 バナ子は不安そうな顔をします。


 ひろちゃんが東京のアパートで1人暮らしをするようになり、あゆちゃんが
 イタリアの大学でもう1度勉強するために旅立ち、うちの暮らしはすっかり
 静かになりました。 パパとママと、バナ子だけの生活。
 ひろちゃんと思いっきり駆け回ることもなく、あゆちゃんに怒られながらも
 甘えることもなく、バナ子は、どこか寂しげな表情で毎日を過ごしています。
 
 大学の夏休みや冬休み、ひろちゃんが帰って来た時は、そりゃもう大騒ぎ。
 バナ子も、ひろちゃんも、どちらもね。
  「ひろは、仙台に帰ればバナ子がいると思うと、東京で頑張れるな。」
 ひろちゃんにとっても、バナ子は大切で大きな存在みたいです。
 久しぶりに再会した時は、体をぶつけ合い、抱き合い、そして走り回ります。

 ひろちゃんの大学の友達がうちに泊まりに来た時は、バナ子はうれしさで
 目がまん丸になって興奮状態。
 みんなと一緒に雪山や牧場を全力で駆け、次の日は、あまりの疲れで
 大いびきをかいて眠り続けます。

 そして年末。
 1年3ヶ月の留学期間を終えて、いよいよあゆちゃんが日本へ戻って
 来ます。 新幹線は帰省ラッシュで大混雑。立ったまま東京から仙台へ
 帰って来るあゆちゃんを迎えに、家族そろって地下鉄の駅へ向かいます。
 ひろちゃんとママが、周りをきょろきょろと見回すバナ子の耳元で、
 余計に興奮させるようなことをささやき続けます。
  「バナ、お姉ちゃんが帰って来るよ。」 「あゆちゃんは、どこ?」
 バナ子の全身が期待でふくれ上がり、地下鉄の出口めがけて駆け出し
 そうです。
  「あれ、あゆじゃない?」 「来た来た。」
 ようやく見えた、大きな荷物を持つあゆちゃんの姿。 
 バナ子がぴょ〜ん!と高く飛び上がりました。
 こんなにジャンプするバナ子は、ここしばらく見たことがないですね。

  「やっと帰って来た〜。 大変だったんだよ。」
 あゆちゃんは、帰国のスーツケースと荷物を全部持って、15時間の電車の
 旅でまずドイツへ。
 前回の留学の時にも訪ねたドイツの家庭でクリスマスを過ごしたそうです。
 ろうそくをツリーに灯す本場のクリスマスの夜を体験し、再び電車でミラノ・
 マルペンサ空港を目指します。
 ところが、乗り継ぎの電車が次々に遅れ、スイスで乗るはずの電車に
 間に合わなくなりそう。 帰りの飛行機に乗り遅れたらそれこそ大変。
 あゆちゃんは、タクシーに飛び乗って駅へ。
 ところがタクシーを奮発したかいもなく、駅に到着した夜11時の3分前に
 電車は既に出発。
 スイスの美しい雪山を眺めながら、寒さに震えて待合室で眠ったそうです。
 そこに現れたのが電車の整備のおじさん。
  「始発の電車がそこに停まってる。暖房が入ってるから中で休みなよ。」

 長旅の末、マルペンサ空港には無事に時間に間に合って到着。
 モスクワ空港へ向けて飛び立ちます。ニュースのトップは、着陸に
 失敗したロシアの航空機の映像。
  「わたし、これからロシアの航空機に乗り換えるのに!」

 留学の最後は大変な経験をしたみたいだけれど、次の日にはすっかり元気な
 あゆちゃん。 ひろちゃんと2人で混雑する街へ出かけて行きました。
 年明けからは、あゆちゃんが一緒の生活。バナ子の表情も少し生き生きする
 かな。
 また来年、お会いしましょう!

                            今年はここまで、またね。 
                                 Beethoven


蔵王で楽しいそりすべり

誰もいない牧場でかけっこ

プロのカメラマンに撮っていただいた写真
オーケストラと共に歌うイタリアの合唱団
最前列のロングヘアーの女性はソリストのあゆ
No.158 No.160