「 若林ひとみの文京区議会便り  No.4  1996年春号 
         ー 「開かれた議会をめざす会」を作りました。
     

       1996年5月8日 発行  全6ページから抜粋・要約
     (区議会便りの後に、議員時代のホームページからの文章を掲載

            
             2回目の一般質問(3月5日)


質問1 地籍調査について
 阪神大震災で土地所有権をめぐるトラブルが多発した。都市部における地籍調査は、震災対策の1つとして
 緊急に検討されるべき課題であるし、文京区内でも頻発する境界紛争の有効な解決手段でもある。
 23区内では北区が平成7年度に地籍調査に着手し、葛飾区、墨田区でも今後行なう予定である。
 文京区でも実施を検討すべきと思うが、どうか。
区長答弁
 行なうつもりはない。
解説
 地籍調査とは、いわば土地の戸籍調査のこと。大震災に備えて、復旧作業を円滑に進めるために
 やるべきことの1つと思う。 阪神地区では地籍調査を行なっていなかったため、震災後、境界線が
 わからなくなったり、境界が確定しないまま建て替えが進むなど混乱が生じた。
 神戸地方法務局の登記官は、「地震が起きてからでは遅い。都市部では早急に地籍調査を行なうことを
 すすめる。」と話す。 (なお、この質問の準備のための神戸行きは私費で賄った)


<質問2 情報公開条例について
 文京区の情報公開条例第3条に「個人に関する情報がみだりに公開されることのないよう最大限の
 配慮をしなければならない」とあるが、区に対し情報公開請求を行なった者の名前は、”公開されることの
 ないよう配慮”をされるべき個人情報か。
区長答弁
 請求者名は保護されるべき個人情報である。


1月26日付けの読売新聞の記事を紹介
 「杉並区と、同区の労働組合の団体交渉をめぐる都地方労働委員会の審問で、区側が提出した
  証拠書類の中に、特定の組合員が文京区に対し、職員の賃金体系などについて情報公開請求した事実が
  記されている。(記載された書類の写真も掲載) 当の組合員は『誰がどんな情報を求めたかという個人情報が
  行政から漏れ、別の機関に利用されているとすれば、区民は安心して制度を利用できない。』と話す。」


質問3 個人情報の漏えいについて
 新聞報道で、文京区に対し情報公開請求を行なった請求人の名前が漏えいした事実が明らかになった。
 当事者は文京区に対し謝罪を求めているが、謝罪は行なわれたか。まだなら、いつ行なう予定か。
 また、この問題の調査を職員がやるのでは全容解明は難しい。第三者による調査機関を設置してはどうか。
区長答弁
 このような事実はないので質問には答えかねる。
解説
 誰がどのような情報の公開を請求したかということは、請求した本人の了承を得ずに外部に漏らしてはならない
 ことであるが、文京区で漏えいが起きてしまった。文京区職員が地方公務員法第34条に違反したことになるが、
 区長の答えは「このような事実はないので答えられない」のみである。
 再質問で区長の答弁を求めたが、「先程お答えした通り」で終わりだった。
 傍聴席の杉並区の関係者の感想は「(対応は)杉並区もひどいが、文京区はもっとひどい」。


質問4 区長の公務について
 公務日誌を作成して区報に掲載すれば、区民に激務の区長の仕事がより理解してもらえると思うが、どうか。
区長答弁
 作成するつもりはない。
解説
 区長は委員会でよく居眠りをしている。さらに本会議場でも、区が主催した講演会の最前列でも眠る。
 以前、住民運動をしている時、区長に面会を申し入れても多忙を理由に1度も会ってもらえなかった。
 区長の仕事がどのようなものかを知りたいのは私ばかりではないと思う。


         
            予算委員会(3月14日〜27日)

先日配布された「ぶんきょう区議会だより」に、平成8年度予算に対する”無所属議員”の反対意見の要旨が
掲載されたが、これは私の意見である。
 「文京区においては、近年のシビックセンター建設最優先の行財政運営により、福祉・教育等といった区民の
  ための施策が充分に行なわれているとは言えない。 シビックセンター偏重により区の財政は逼迫し、
  経営改善計画により福祉・教育等の関連事業は見直しがされている。
  このような区財政運営を行なってきた責任のある区長他、特別職の給与引き上げには賛成できない。
  区民の代表として行政を監視する立場にある議員が、行財政の見直しがされている中で議員報酬の
  引き上げを容易に行なうべきではない。
  また、(注:ドイツの)姉妹都市訪問は必要性に乏しい。議会は自らの公金使途に厳しくあるべきである。」

解説 1
区長の給料は今年の4月から、12%の調整手当てを加えて月額138万円に、議員報酬も60万5千円に
引き上げられた。 区は財政状況が厳しいことを理由に経営改善計画を立てている。庁内の仕事を見直して
無駄を省くことに異論はないが、中にはお年寄りにしわ寄せがいく見直し計画も含まれる。
行革を行ないながら、区長や議員の給料は引き上げる感覚が私には理解できない。
ただ、議員報酬の値上げに反対であっても、可決されてしまった以上、値上げ分を区に返還することはできない
(選挙区での寄付行為となり公職選挙法違反)ので、区外の団体に寄付することにした。

昨年の選挙の後、新議長となった議員にドイツの姉妹都市、カイザースラウテルンから就任を祝う手紙が
届いた。その最後に、「いずれ機会があれば、あなたや皆さんにお目にかかりたい」とあった。
これは、日本の引越しの挨拶状に「お近くにおいでの節はお立ち寄り下さい」と書くようなものであるが、
与党議員は、「このような手紙をもらった以上は訪問すべき」と、カイザースラウテルン市と他2都市を
訪問するための予算1200万円を要求、区長もこれを認めた。
他2都市を訪問する目的すら決まっておらず、”まず海外に行く、目的はあとから考える”海外視察など行なう
べきではない。 私が「観光旅行的なものは行なうべきではない。」と述べたところ、与党議員から
「議会を侮辱した」と緊急動議が出されて委員会は紛糾、私は退場を命じられそうになった。
その前に私が、「政務調査研究費には領収書を添付すべきだ」と発言したことも、緊急動議の引き金に
なったのだろう。

解説 2
政務調査研究費とは議会活動のために支給されるお金で、文京区は1人当たり月12万円。
政調費の収支報告書は年度末に、1年分の人件費・会議費といった各項目の総額のみを自己申告で記して
提出すればよく、領収書を添付する必要はない。この政調費は”第2の報酬”とも呼ばれている。
私は1年間だけ政調費をもらい、領収書を付けた詳細な収支報告書を提出して、1年間の議員活動に
どれほどお金がかかるのか記録を残そうと思っていた。
私が「政調費の収支報告書には今後、領収書をつけるようにしてはどうか。」と提案したところ、
複数の委員から「あなたのように1人で使い、1人で報告書を書く人こそ、何に使っているかわからない。」
「僕が以前1人(注:無所属)だった時は、もらえなかった。」と言われた。
核心からはずれたところで話がもたつくのはいやだし、どのみち今年度からは受け取らないつもりだったので、
昨年度分(95年5月〜96年3月分)の政調費132万円全額を区に返還した。
なお、余った政調費は区に返すことになっているが、毎年、共産党以外は全額使いきり、収支報告書の
残高はゼロとなっている。

解説 3
議員が本会議や委員会に出席すると、費用弁償(交通費と食費の弁償)という1日5千円の日当が出る。
議員報酬の他に日当が出ることを、議員になって初めて知って驚いた。
私は区役所に行くのは自転車か徒歩、食事はどこにいてもするものなので弁償は不要である。
ただ、不要であっても区へ返還はできないので、選挙区外の団体に寄付している。

解説 4
議員を2期(8年)以上勤めて議員を辞めた(落選を含む)人を議員待遇者と呼ぶ。議員待遇者会は区長との
懇談会や他の自治体への視察等を行なう。 議員待遇者会には区から150万円の補助金が出ているが、
私は予算委員会でこの補助金支出に反対した。
シビックセンター内には議員待遇者控え室という会専用の75.7uの広さの部屋があり、18金の
議員待遇者バッジは1個3万8千円する。

       
     

             「 開かれた議会をめざす会 」
 
区議となり議会の様子を中から見ると、驚くこととあきれることが数々あった。今の日本の議会を変えるなど、
簡単にできることではない、どうしたものか。 1人の議員が議会の中でやれることには限りがある。
しかし、議会改革をめざす日本各地の議員が一緒に行動を起こせば、ある程度世論にも影響を与えられるかも
しれない。 そうだ、全国組織を作ろう!
そして昨年9月から、勉強会等で知り合った議員に「議会改革を目的とした会を作ろう」と声をかけていった。
しかし、なかなか賛同者は見つからなかった。こんな会を作ったら大半の議員を敵に回すことになるのだから、
相当の覚悟が必要だ。 呼びかけに最初に応えてくれたのは、市川房江記念会の勉強会で知り合った議員。
その後も反応の鈍さに落ち込んでは気を取り直し、落ち込んではまた気を取り直し、仲間を探し続けた。

3月に共同通信社がニュースを配信してくれ、秋田や鹿児島の議員からも入会の申し込みがあった。
目下の会員は、全国の議員が約25名、市民が約10名である。
5月12日に結成記念のシンポジウムを開く。議会改革は議員だけではできない。有権者の協力も不可欠。
暮らしを変えるには、まず住民の代表機関である議会を変えること。日本の地方議会を変えるには
どうしたらいいかを、一緒に考えていただきたい。
なぜこのような会を作ることにしたか
1. 議会の行政監視機能が停滞しているが、議員自らが公金の無駄遣いを行なっているのがその一因である。
2.議会による公金の使途を納税者に知らせるのは、政治倫理以前の問題で当然行なわれるべきこと。
3.新人議員として驚きが新鮮なうちに「おかしい」と声をあげないと、議会の悪しき慣習に取り込まれてしまう
  危惧が私達にはある。


編集後記
昨秋の京都視察と、5月21〜23日の九州視察の報告、また、皆さんからいただいたご意見は、
次号に掲載の予定。

 

                       ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★

                    「議会を変える試み」 (神奈川大学評論 98年31号)

元々そんなに簡単にいくとは思っていなかったが、これほどてこずるとも思ってはいなかった。
議員による公金使途是正のことである。
4年前私は、文京区の豪華庁舎と大型公会堂建設の見直しを求めて住民運動を行っていた。それまでの私は、
国政には関心を持っても地元のことには全くと言っていいほど無関心だった。関心を持とうにも情報がなかったし、
また、“議員”という人達がいるのだから、その人達がちゃんとやってくれているのだろうと思っていた。
ところが、住民運動の過程で生まれて初めて議会なるものを傍聴して驚愕した。ちゃんとやってくれているどころか、
これでは私達の生活環境が欧米並みにならないのも無理はない、と思った。自分の時間を削り、必死で署名集めを
してハコモノの見直しを求める私達が座る傍聴席に向かって「区政を混乱させようとしている人達がいる。我々は
区長をお守りせねばならない」と言った議員もいた。こういう議員に私達は税金から報酬を払っていたのか・・。

行政情報コーナーで予算書を見ると議員の年俸は1千万円近かった。サラリーマンの平均年間所得の倍以上である。
私はまずその額に驚いた。予算書には“議長交際費4百万円”の記載もあった。そこで現金出納簿を情報公開請求して
みたが、作っていないとのことだった。現金出納簿がないのだから領収書などあるはずもない。あきれて言葉もなかった。
海外視察の報告書はお粗末の一語に尽きた。
区議会議員でこれだけの厚遇を受けているのだから、政令市議会議員、都道府県議会議員、国会議員ともなれば、
かなりの額になるはずだ。日本全国で議員のために一体いくらの税金が使われているのだろうか。
当時、ドイツの国会議員の報酬が日本円にして年千数百万円ということだった。
議員報酬の高さと国民生活の質の高さは比例しないということを私はこの時知った。

3年半前の統一地方選挙時、せっかくの機会にもかかわらず候補者を立てない住民運動グループに業を煮やし、
支援組織も選挙資金もないまま私は1人で直前に立候補を決意し、選挙はがきと選挙公報とポスターのみの選挙戦で
なんとか当選した。議員の厚遇や特権の見直しが選挙公約だった。
驚いたのは、議員になって初めて知った“厚遇”があったことだ。報酬の他に会期中の出席日に対し支給される
費用弁償(日当・交通費)、領収書不要で自己申告の報告書一枚で決算報告が許される政務調査研究費、
議員経験者の任意団体に支給される補助金、議員年金、議長用公用車等々。

議会費の使途是正は、議員がその気になればすぐにできることである。そこで早速、予算委員会等で海外視察の
見直しや政務調査研究費等の会計処理の改善を提案したが、私の声が周囲に聞こえなくなるほどのヤジ・怒号が
飛び交い、「観光旅行的な海外視察」という発言は議会侮辱だとして緊急動議が出され、退場まで命じられそうに
なった。あげく古参議員に言われたのは「都議会でもこうやっているのだから、これでよいのだ」だった。

文京区議会を変えるには、まず都議会からかえねばならない。こう思った私は、都議会海外視察等の会計文書の
情報公開、政務調査研究費の目的外使用等の返還を求めて提訴した。情報公開の方は東京地裁、高裁とも
全面勝訴したのだが、最高裁に上告され未だに会計文書は見ることができずにいる。
納税者にはよほど知られたくない内容なのであろう。(他はまだ地裁で係争中)
今まで裁判のための調査や資料分析に要した時間と弁護士費用等の経費を、もっと建設的な活動にかけたかったと
思う。 最近都議会では議会費の処理方法に若干の改善策が講じられ、それに伴い文京区議会でもわずかながら
改善がみられた。それなりの効果はあった訳だ。しかし、ここまでやって得られた成果の小ささ、つまり費用対効果を
考えると、“公金なのだから領収書添付の明朗会計は当たり前”という世間の常識が議会の常識となるまで、
あとどれ程の時間とエネルギーが必要なのかと、正直気が遠くなりそうになる。

議会関係者や政治学者から、自治体予算のごく1部でしかない議会費の追求よりも、執行部による無駄遣いの追求を
すべきだ、との助言、あるいは批判を何度か受けた。確かに、公共事業等執行部の扱う金額の方がはるかに大きい。
しかし、私が議会費の追求をしているのは、自ら税金の無駄遣いをして納税者に恥じることのない議員に、執行部の
チェックなどできる訳がない、議会の体質を変えないことには日本の政治は変わらない、と思うからである。
議会費の使途是正がどれ程大変なことか、自分の町の議会費を一度チェックして頂ければ、おわかりいただけると思う。
議員の抵抗が大きければ大きい程、それだけ問題の根が深いということである。

私は今年、半年以上の時間を費やし、文京区シビックセンターのビルメンテナンス経費(総額約7億5千万円)と
その業務委託の入札状況の調査を行った。都庁で入手した資料を分析し、談合問題を取材した新聞記者や
業界関係者に話を聞き、談合の疑いが濃厚と判断したが、委員会で質問を行えば、他議員から早く質問を終えるよう
横槍が入り、「談合があると言わんばかりの発言は問題だ」と非難された。疑わしきは共に調べるのが、
住民代表としての議員が本来取るべき道であろう。
国、地方を問わず、すべての議員が公金使途に襟を正し、清廉潔白が政治家の形容詞となる時、議員が入札に
絡んで口利きをすることも、その見返りに政治献金や選挙応援を受けることもなくなるだろう。
そうすれば業者間の談合もなくなり、執行部の予算も今よりは適正に執行されるようになるだろう。

その日がいつ来るかは、有権者次第である。